体育の授業中、サッカーの試合で男子のひとりがボールを股間に受け、悶絶していた。
「うおお……っ!! い、いてぇ……!!」
倒れ込んで、しばらく起き上がれない。
周囲の男子たちは「あー、あれはヤバいな」と気の毒そうな顔をしていたが、詩織は腕を組んでその様子を見ていた。
サッカー女子の詩織は、演技じゃないか疑っていた。
「ねえ、悠斗くん」
隣にいた悠斗に、詩織が何気なく話しかける。
「玉を打つって、本当にそんなに痛いの? 演技じゃなくて?」
悠斗は一瞬、言葉に詰まった。
「いや……痛いんじゃないか? 俺も昔は——」
言いかけたその瞬間、詩織はハッとしたように口を押さえ、ニヤリと笑った。
「あ、ごめん。今の悠斗くんに聞いてもわかんないか」
悠斗の表情が固まる。
「だって、今の悠斗くん、私と一緒で玉ないもんね」
無邪気な口調だった。
詩織に悪気はない。むしろ、何気ない会話の流れで自然に出てきた言葉だった。
しかし——
悠斗の心臓は、ぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。
「……」
何も言えない。
詩織は、そんな悠斗の沈黙を気にも留めず、またフィールドのほうへ視線を戻した。
「あーあ、男って大変だねぇ。たったあれだけで動けなくなるんだもん。悠斗くん、今はそういう心配しなくていいから楽でしょ?」
悠斗は、何かを言い返そうとした。
けれど、言葉にならなかった。
(……俺は、本当に“楽”なのか?)
その問いの答えは、悠斗自身、まだ見つけられずにいた。

詩織の無邪気な一言