修学旅行の夜、旅館の畳の上に布団を敷き、詩織たち4人の女子はキャッキャと枕を抱えて話していた。
「ねえねえ、男子ってさ、どうしてどこでも立ってできるんだろう?」
クラスのムードメーカーの奈々が、唐突にそんな話題を持ち出した。
「ほんとそれ! なんであんなに簡単にできるんだろうね?」
すかさず美咲も乗っかる。
「だって、おちんちんが付いてるからでしょ?」
千尋が言うと、部屋にいる4人が同時に「確かに」と頷いた。
「いいよね、男子は。どこでもできるし」
奈々がため息混じりに言う。
「ほんと、羨ましいよね。トイレ行くのめんどくさいときとか、すぐに済ませられるのズルくない?」
「うんうん。学校のトイレでもさ、男子って並ばなくていいじゃん? 私たちは毎回長蛇の列なのに!」
「わかるー! しかもさ、体育のあととか急いで行きたいのに、間に合わなくなるときあるし……」
詩織はその会話を聞きながら、昔の出来事を思い出していた。
「私、一回やってみたことあるんだよね」
そう言うと、他の3人が「えっ!?」と驚いた顔をした。
「え、どういうこと!? 詩織、どういうこと!?」
「小学生のとき、男の子と遊んでるときにさ、ふざけて『私もできる!』って言ってみたの」
「で、どうなったの?」
「うまくいかなくて、全部足にかかっちゃった……」
「ぎゃはははは!!!」
部屋中に笑い声が響いた。
「詩織、何やってんのよ!」
「だって、おちんちんがついてないから……」
詩織がそう言うと、再び爆笑が起こった。
「いいなぁ、男子は。何も考えなくてもできるもんね」
美咲がしみじみと言うと、千尋も深く頷いた。
「そうそう、外でトイレ行きたくなったときとか、男子は楽だよね。いちいちしゃがまなくていいし」
「キャンプとか登山とか、男子はすぐに済ませてるのに、こっちはトイレを探さないといけないし……」
「公園とかで遊んでるときも、男子はトイレまで行かなくてもいいからズルい!」
「しかも、和式トイレのときとか、めっちゃ大変じゃない?」
「わかるー! ほんと、不公平だよね……」
詩織は、そのときは笑いながら話を聞いていたが、大人になった今、目の前にいる悠斗を見て思う。
——男なのに、私たちと同じ状況になっている。
あの夜、「不便だよね」と言っていた自分の前に、まさにその状態の男がいるなんて。
詩織は、好奇心に火がつくのを感じていた。

詩織の中学時代