悠斗は、ベッドの上に仰向けになり、天井を見つめていた。
明日は夏希とのデート。二人で映画を観て、夕食を共にする予定だった。普通の恋人同士の時間。しかし、その普通が、悠斗にとっては意味を持っていた。
「俺は……彼女をリードできるのか?」
恋人として、男として、夏希をエスコートする。それが当然のように思えていた。しかし、彼の中には拭えない不安があった。
夏希は自分を好きだと言ってくれている。それは嘘ではないはずだ。だが、それでも、「男」として求められているのか、自信がなかった。
食事のとき、さりげなく支払いをするのは当然だろうか。歩くときは、彼女を守るように横に立つべきか。何より、手を繋いだとき、夏希は本当に自分を「男」として感じてくれるのか。
「……もし、このまま進んだら?」
デートの帰り道、夏希が部屋に来ることになったら。その先にあるのは……。
悠斗は、胸が苦しくなるのを感じた。
彼には、男性器がない。
夏希はそれを知っている。それでも彼を選んでくれた。けれど、本当にその現実を受け入れられているのか。
「俺は……夏希を満たせるのか?」
一瞬、また不安がよぎる。しかし、ふと、彼女が以前言った言葉を思い出す。
「悠斗は悠斗のままでいい。私は、悠斗がそばにいてくれるだけでいいの。」
その言葉は、彼の中で静かに響いた。
悠斗は、深く息を吐く。
男性器がないことは、自分にとって大きな壁だ。でも、それがすべてではない。愛する人と向き合い、心を通わせることができるのなら、何を持っているかではなく、どう向き合うかが大切なのではないか。
「そうだ……俺は、俺なりに夏希を愛せるはずだ。」
不安はまだ消えない。それでも、夏希と共にいる時間が、少しでも自分に自信を与えてくれるはずだ。
悠斗はスマートフォンを手に取り、夏希にメッセージを送る。
「明日、楽しみにしてる。」
しばらくして、「私も!」という返信が届いた。
悠斗は小さく笑い、目を閉じた。
何が正解なのかは分からない。それでも、夏希と一緒にいることで、その答えを見つけていけるかもしれない。
「大丈夫。俺は男だ。」
そう自分に言い聞かせながら、眠りについた。

第11章:デート前夜の決意