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男の腕の中は宇宙

ブログ名:クノタチホのブログ

今日は日曜日。

毎週日曜日はボク達にとっては特別な日。

 

日曜日は仕事を早めに切り上げて、『アタシ』という意識に入る心の準備をする。

家に戻るとYシャツを脱ぎ、ネクタイをほどき、男の殻から少しずつ抜け出していく。

 

髭を落とし、シャワーを浴びながら、足の毛、腕の毛、胸の毛、男を感じさせる部分を少しずつ削ぎ落としていく。

シャワーを浴び終えた後は、自分の身体を普段より優しくタオルで拭く。

女の身体を愛撫するように優しく拭く。

その後は肝心の目を入れかえる。

男の目から、女の目に入れかえるのだ。

透明のコンタクトレンズを外して、渋谷のギャル御用達の淵在りのカラコンを入れる。

 

目を入れかえると化粧をする前のスッピンの女の顔が表の世界に顔を出す。

少しずつ、少しずつ『アタシ』という意識が身体を支配していく。

 

そして、完全に意識が切り替わる直前、アタシとボクの奇妙な自己対話が始まる。

男『明日は大事な打ち合わせがあるんやし、ハメ外し過ぎたらアカンからからな』

女『相変わらず口うるさいねぇ、せっかくの日曜日なんだから水ささんとってよ』

男『二人の約束守らんかったらこの契約は打ち切りやからな』

女『ふん、そんな事しても元のつまらない人生に逆戻りやん』

男『相変わらず、口ではチホに勝てへんわ』

女『こっちは章ちゃんの変な性癖に付き合ってあげてるんやから、変態さん』

男『わかった、わかったから、、、、でも明日の予定は頭に入れとってよ』

 

こんな会話を意識の中で繰り返しながら、ボクは自分の身体を女に委ねていく。

そしてボクは、これから女の自分との不倫を楽しみやってくる男に憑依するかのように男の自分をその男に投影している。

その男の身体を借りて、ボク達はSEXをする。

 

その時間、ボクという意識は普段とは違う部屋にいるアタシという意識が元々居た暗くてだだっ広い部屋に居る。

自分の内的空間の中には色んな部屋がある。

その中で一番暗くて広い部屋。

 

その部屋は五感の情報を受信している部屋とは遠く離れていた。

だからアタシという意識が五感で体験しているのは、男と接吻をし、男に愛撫され、女として男に抱かれているという体験なのだ。

でも意識のアングルを切り替えると、女のアタシを抱いているのは間違いなく男の自分自身である事がわかる。

 

この意識のアングルを変える事を、性的倒錯=パラフェリアというらしい。

そしてパラフェリアの中でも男性が女性化した自分に対して性的興奮感じる現象の事を自己女性化愛好症というらしい。

女装をする男性の多くはこの自己女性化愛好症が原因で女装をしているのだ。

 

性同一性障害=GIDと呼ばれる人達との違いは男の意識と女の意識の出入りが行われるかどうかという事に違いがある。

GIDの人達は男に生まれたのに男の意識が内的空間の中の例の一番暗くて広い部屋から出てこれなくなってしまっている状態にある。

だから苦しいのは当たり前で、その部屋に鍵をかけているのは女の意識だ。

極度の男性嫌悪感をもった女の意識が、男の肉体を支配している。

それが所謂GIDと呼ばれる人たちの内的状態だ。

 

 アタシはそんなに、男が憎いわけでは無い。

だからアタシが男に主張したのは自由だ。

ずっと鍵のかかった暗い部屋に33年間閉じ込められてきたわけで、アタシという意識が五感の情報を受信している部屋に入ることは禁止されていた。

それが末っ子の長男であり、一人息子に生まれたアタシたちの鉄のルールだった。

そして、そんな鉄のルールの中で創り出した現実は、

大学を卒業し証券会社に就職し、28歳で起業。

100万円を資本金で始めた会社は、5年間で年商5億円規模まで拡大を果たした。

人から羨ましがられるような美人の妻と可愛い一人息子が居て、それなりに男としては人並み以上に幸せなものだった。

でも、ある事がきっかけで、この鉄のルールは撤廃され、33年間ずっと鍵のかかった暗い部屋に居たアタシは外の世界を五感の情報を受信している部屋から体験する事が許可された。

そしてアタシは、もう一人の自分として、とても大切にしてもらっている。

女として、男に愛されるという体験まで許可してもらっているわけだから。

意識のコントロール室に入室したアタシは、彼と会う前の女を創りこむ準備を続ける。

一重で腫れぼったい目に影をつけていく、

目尻のを超えて大きくアイラインを引いて、

目のキワに色を入れていく。

そして二重の幅を決めてそこに窪みを造形していく、二重用の粘着剤をその窪みの後に塗り込んで、プッシャーで目の上の肉を押し込むと、腫れぼったい一重の目は信じられないぐらいにぱっちりとした目になる。

そこにその日の気分でつけまつげを選ぶ、そして自まつ毛の少し上にのせるように、つけまつげを装着すると、人形のような目になる。

自分自身が吸い込まれるような感覚に陥る時もあるぐらいに魅力的な目をつくる。

そして髭を隠す細工をして。

チークとリップでより顔の色合いに女らしさを足したところで化粧は完了。

男が好きそうなセクシーな下着を選んでいる時は最高に楽しい。

下着も服も男の身体をよりセクシーに見せてくれるデコレーションのようなもので自分の身体にあったものが見つかれば時に女性に負けない色気を発信できる。

そして髪型を選ぶ。

その日の、メイク、下着、ファッションに合うウィッグを選ぶ。

そこは女性とは全く逆の選択の順番かもしれない。

そして鏡に映る女という造形が視覚に入ると、なんとも言えないような高揚感をカラダ全身に感じる。

 

意識のポジションチェンジが完了したサインだ。

 

そしてアタシは、男を受け入れる準備をはじめる。

そしてボクは、深い意識の部屋で待機をする。

 

日曜日の男は50代前半の妻子持ちのとても優しい男だ。

単身赴任で大阪に一人暮らしをしている、生活にも精神にも余裕がある男だ。

 

その余裕に包まれる事に癒しを覚えてしまったアタシは、気がつくと毎週、毎週、会える事をものすごく楽しみにするようになっていた。

 

男と関係を持ったのは、はじめてでは無かった。

今までも何度と無く男に身体を許した事はあったし、いわゆる恋人同士の関係に発展する事もあった。

でもこんなにも気持ちを穏やかにしてくれる男と出会ったのははじめてだった。

こんなに心地の良い状態にしてもらえる事は無かった。

 

そんな彼はきっと男の自分を投影しやすい対象だったんだと思う。

 

彼と愛し合った後、彼の胸にギュッと抱きしめながら寝るのがアタシは大好きだ。

 

彼の胸に顔を埋めて、幼い少女でいるように錯覚している時、アタシは何もかも忘れて女で在る時間に幸せを感じている。

 

そして1週間のうちにあった全ての嫌な事を忘れさせてくれる。

そして男に生まれて来たという前提さえも全て忘れさせてくれる時間。

 

性同一性障害の人みたいに強く、男に生まれ事を恨んだ事はない。

けど、もう一度生まれ変わってどちらを選ぶかと神様に聞かれたら、絶対女を選ぶのは間違いない。

 

そんなアタシにとっては日曜日の夜は魔法にかけられたシンデレラのような時間。、

 

そして夜は明け魔法使いがシンデレラにかけた魔法が解けるように基の男の意識に還る朝がやってくる。

 

『また来週ね、大好きだよ』

と軽いバグをしてから彼は仕事の支度をアタシより早く起きて始める。

 

彼が帰ると言い知れないような寂しさが襲ってくる。

そしてこれが女の恋心なんだなぁと余韻に浸っている間もなく、男の声が頭の中から聞こえてくる。

 

男『交代、交代、交代』

女『もぉー、なんで良いところで出てくんのよぉー!余韻、余韻、余韻、人生は感動の余韻なのよ!!ハゲ』

男『今日は午後一番で大事な打ち合わせがあるからちょっと早めに支度したいって言うたやん』

女『ホンマ節操の無い男やわ、ホンマ』

男『うっさい、節操が無いくらい働きもののボクが居るから女物の服も、化粧品もいっぱい買ってあげれるんやんか、感謝しないと』

女『そういう恩着せがましいところ直した方がええで、ホンマに変わってないね』

男『はいはい、ちゃんと感謝してますよ。チホちゃんのおかげって思ってるから』

女『おかげで??おかげで何よ』

 

そうじゃれあうような自己対話の中でボクとアタシは愛を育んできた。

ボクの人生は女装をした自分に恋をした事で全く、それまでの人生とは違う人生になった

 

ただ、まるで違う星にやってきたのかと疑うほどに、ボク達の世界は自分に優しい世界へ変化していった。

 

それまでの人生というと、、、、、

それはあまりにも自分に優しくない世界だった

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