南米 新型コロナ疑いの黒人トランス女性を放置し死なせたとして救急隊員の対応に批判が集まる
何がアレハンドラ・モノクコを死に追いやったのか。答えは、永遠に明らかにされないのかもしれない。モノクコが亡くなったのは5月29日だった。
ダザが救急センターに電話をかけてモノクコの症状を説明すると、新型コロナウイルスに感染したのかもしれない、と言われた。救急車が到着したのは45分後だった。
隊員はそこで採血を始めた。ダザはモノクコがHIV陽性であることを電話で告げていたが、隊員がモノクコの病歴をたずねたため、改めてその事実を伝えた。そこで事態が一変した、とダザは言う。採血をしようとしていた隊員が不安な顔を見せたのだ。
「怖くなった様子でこう言ったんです。『これは薬物の過剰摂取による症状かもしれない。水も食べものも、一切何も与えないでください。呼吸停止しているようなので、のどに詰まらせて死に至る可能性があります』」
「すると隊員は『いや、心配しなくていい、新型コロナの症状じゃないし、薬物の過剰摂取の疑いがあるから。そっとしておけばいい、大丈夫、深刻な事態にはならないから』と言ったんですよ。その結果がこれです!」
救急隊員らはその場を去ったあと、近くの道端でたばこを吸い、飲酒していたとダザは言う。
「あの子が部屋で死にそうになっているのに――息ができなくて苦しんでましたから――救急隊員が外でたばこを吸って赤ワインを飲んでいたんです。あり得ないですよ」
アレハンドラ・モノクコの死に抗議し、ボゴタ市内で集まる人々。2020年7月3日
ダザをはじめとする多くの人が、モノクコを死に追いやった本当の原因は、はっきりしていると考えている。彼女が黒人のトランス女性で、セックスワーカーで、HIV陽性者なのを理由に、救急隊が適切な処置をとらなかったからだ。折しも世界では、人種による不公正や、トランスジェンダーを標的にした殺人や不当な扱いに対する抗議活動が歴史的な規模で展開されている。モノクコの死は彼女が暮らしていたコロンビアの首都ボゴタで人々の憤りを呼び、その輪はさらに広がりをみせている。
「医療現場でのトランスジェンダーに対する扱いはかなりひどいものです」
「リベラル度の高い憲法の制定から30年、裁判所が進歩的な決定を出すようになって30年、そしてレズビアンの市長の誕生を経て、市はLGBTQの人々をどう扱っているのかと問う議論が起きています」
Andres Virviescas / Getty Images昨年ボゴタ市長に選出されたクラウディア・ロペスは、同市初の女性市長であり、LGBTを公言する初の市長でもある。
だが、差別と闘う意思を明言したにもかかわらず、トランスジェンダーやセックスワーカーを支援する姿勢に乏しい、とサラマンカは指摘する。
ボゴタ市の新型コロナウイルス感染者は7月23日の時点で7万5000人近くに上った。
感染拡大のスピードを抑えるべく、ロペス市長は4月、市民をジェンダーで分けて外出制限を課す措置「Pico y Género」を打ち出した。奇数日を男性が外出可能な日、偶数日を女性が外出可能な日とし、トランスジェンダーの人は自分の性自認に合う方を選んでほしい、と説明した。この措置は「トランスジェンダーに対する人権侵害にあたる」などとして世界の人権団体から批判を浴びた。ペルーとパナマでも同様の措置が打ち出され、同じくトランスジェンダー差別が指摘されている。アルバラシン弁護士は同措置が憲法に抵触するとみる。
日本は本当に恵まれてる。
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