日本一の女装専門情報ポータルサイト

女装ワールド

3月3日(土)太田記念美術館「江戸の女装と男装」

ブログ名:三橋順子先生ブログ

3月3日(土)

原宿の「太田記念美術館」の企画展「江戸の女装と男装」を見に行く。

『朝日新聞』美術担当の記者さんが同行。
企画担当で招待券を送ってくださった学芸員の渡邊晃さんにご挨拶しようと思ったが、残念ながらご不在。

混んでいるというほどでもないが、お客さんは多い。
まだ2日目と言うこともあるが、異性装(女装・男装)が大好きな日本人の文化特性(拙著『女装と日本人』参照)を考えると、企画展の成功は疑いなしだと思う。

小声でコメントしながら、作品を見ていく。

太田記念美術館が「江戸の女装と男装」というテーマを風の便りで聞いた時、「女装はたくさん作品があるけど、男装は少ないよなぁ、バランスがとれるかなぁ」と思った。
ところが、そうではなかった。
1階の展示室は、すべて男装の作品。
ポスターにもなっているように、新吉原遊廓の8月の行事「にわか(俄・仁和賀)」における女芸者の男装をテーマにした作品が最初に並び、次に江戸の大祭、神田祭と山王祭の「手古舞」の芸者の男装が描かれた作品が続く。

たしかに女性が男装する機会としては、この2つが考えられるが、「吉原仁和賀」はともかく、祭礼における「手古舞」の絵がこんなにあるとは知らなかった。
ただ、展示されている作品が江戸(幕末)より明治期のものが目立つのはなぜなのだろう。
この種のテーマが明治になって好まれるようになったということだろうか?

それにしても、女性が男装した「手古舞」に男性が女装した歌舞伎の女形が扮した姿を描いた作品など、「ジェンダーを捻る」ことが大好きな日本人の特性がよくあらわれている。

2階の展示室は、女装の作品が中心。
熊襲タケル兄弟の館に入り込む女装の小碓皇子(ヤマトタケル)、弁慶が女の見誤った五条の橋の牛若丸、そして女田楽の美少女スター旦開野(あさけの)の姿で仇の一族を斬りまくる『南総里見八犬伝』の女装のヒーロー犬坂毛野、『平家物語』の女武者巴・板額など「物語」の女装・男装の作品。

続いて、瀬川菊之丞(二世・三世)や岩井半四郎(五世)など江戸の庶民を熱狂させた名女形たちの絵姿。
ここでも「三人吉三廓初買」のお嬢吉三や「青砥稿花紅彩画(あおとぞうし はなの にしきえ)」の弁天小僧菊之介など、ジェンダーが転換した人物を女形が演じた姿を描くという「ジェンダーの捻り」が重なる。

面白かったのが最後の「やつし絵」「見立て絵」におけるジェンダーの入れ替え。
中国の仙人や隠者(寒山拾得)、さらには「三国志」の諸葛孔明や劉備玄徳まで女にしてしまう。
中国人が見たら驚き呆れる(さらには怒る)日本特有の「ジェンダー転換」の感覚。
そうした感覚は過去の物ではなく、現代の日本で「西遊記」の三蔵法師(当然、男性)の役を女優が演じるのが定型化していることにも通じている。

ともかく、知名度がある美術館が「女装と男装」という形で異性装を真正面から取り上げた企画展をを行うことは初めてのことで、ようやく時代がここまで来たのかと感慨深い。

日本の江戸時代の絵画は、異性装の人を描いた作品がとても多い。
異性装の人が描かれることは欧米ではほとんど皆無、アジアでも極めて少なく、日本の作品量は、世界的に見て圧倒的だ。
しかし、そうした特性を日本の美術界は、意図的に無視することを続け、論じることを避けてきた。
そうした姿勢が、ようやく改まりつつあるのは、たいへん良いことだと思う。
3月3日(土)太田記念美術館「江戸の女装と男装」
3月3日(土)太田記念美術館「江戸の女装と男装」
三橋順子先生ブログ

  • B!