諦念にも似た深い溜息が、悠斗の喉から絞り出された。抗うことすら無意味に思えた。しかし、それでも彼は体勢を変えた。正常位。
それが、今の彼にできる唯一の、そして最後の抵抗だった。せめて、男としての矜持を保つための、虚しい儀式。
——だが、現実は残酷だった。
かつて、そこにあったはずの陰茎は、跡形もなく消え去り、ただの皮膚と肉の塊へと成り果てていた。残されたのは、過去の記憶をかすかに呼び起こす、わずかな人工クリトリスによる性感帯だけ。まるで、忘れ去られた亡霊のように——儚く、頼りない存在。
悠斗は、その僅かな希望の灯火を頼りに、詩織の身体に押し付けようと試みる。
——だが、それは届かない。
まるで目に見えない壁が、二人の間を隔てているかのように、それは拒絶された。
焦燥感が、悠斗の心を黒々と蝕んでいく。底なし沼のように、彼の意識を絶望の淵へと引きずり込む。
(……俺は、一体何をやっているんだ)
自分の無力さが、情けなく、そしてどうしようもなく悔しい。男として生まれた意味さえ、見失いそうになる。
それでも、彼は諦めなかった。
何かできることはないかと、必死にもがく。かつて陰茎が生えていた場所を、何度も何度も、詩織の股間に押し付ける。それは、乾いた大地に水を求めるような、無益な行為だと知りながらも、止められない衝動だった。
——微かに、微熱を感じる。
だが、それは求めているものではない。
この渇きを癒すことはできない。届かない、満たされない、空虚な熱。まるで、指の間から零れ落ちていく砂のように——。
詩織の表情が見えない。暗闇が、彼女の感情を覆い隠している。
彼女は何を思っているのだろうか。失望? 落胆? それとも、憐憫……?
「——そんなんで入るわけないじゃん。」
突然、詩織の挑発的な声が、静寂を切り裂いた。
悠斗の焦りを煽る、残酷な言葉だった。
「もっと、ちゃんと入れてよ。痛くも痒くもないんだけど?」
詩織は、わざとらしく体をくねらせながら、挑発的に微笑む。その声には、隠しきれない嘲笑の色が滲んでいた。
悠斗は、自分の行動が無意味だと気づきながらも、止めることができなかった。
それは、まるで呪いのように、彼を縛り付けていた。
詩織の挑発に乗せられるように、さらに激しく、何もない股間を押し付ける。
それは、もはや快楽を求める行為ではなく、ただの自虐行為だった。
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届かぬ陰茎