詩織の視線が悠斗の股間にじっと向けられている。
バスローブの隙間から伸びる白い指先が、悠斗の下腹部へと向かっていた。
「ねぇ……悠斗くん」
その声は、どこか探るような響きを持っていた。
「前に言ってたよね。交通事故で、男性器を失ったって……」
「……ああ」
悠斗は、かすれた声で答えた。
詩織は指をそっと滑らせながら、じっと悠斗の顔を見つめる。
「でも、ホントにそうなの?」
「……どういう意味だよ」
「だって……」
詩織は、さらに指先を伸ばし、悠斗の股間に軽く触れた。
その感触に、悠斗は思わず身を引こうとする。
しかし——
「まるで、女の子のあそこみたいじゃない」
詩織は囁くように言った。
悠斗の胸が締め付けられる。
(やめろ……)
自分でもわかっている。
これは、ただの傷跡じゃない。
悠斗が失ったものの痕跡など、どこにもない。
そこにあるのは、まるで生まれつきのもののように作られた“女性の形”だった。
詩織は少しずつ、悠斗の表情を伺うようにしながら、自分のバスローブの紐をほどいた。
——ふわり。
ローブが落ちると、彼女の美しい身体があらわになった。
そして、その股間も——。
「ほら、私と一緒よ」
悠斗は、言葉を失った。
あまりにも整ったその姿に、息が詰まるほどの興奮を覚える。
しかし、次の瞬間——
(……違う、俺はこんなものに興奮してる場合じゃない)
悠斗は歯を食いしばる。
自分の股間が、詩織のものと同じように見えてしまうことが、何よりも屈辱だった。
男として、こんなものを持ちたかったわけじゃない。
しかし、もう隠しきれなかった。
詩織の鋭い視線が悠斗を貫く。
「悠斗くん、本当は……」
「……」
悠斗は、拳を握りしめる。
今まで、誰にも語ることのなかった過去。
しかし、ここで語らなければ、もう言い訳はできない。
悠斗は、静かに息を吐き、口を開いた。
「……俺は、ニューハーフだった」
その言葉が、静かなホテルの部屋に落ちた。
詩織の目が、わずかに見開かれる。
悠斗は、目をそらさずに続けた。
「昔、自分の意思で……男を捨てたんだ。でも、今はもう……」
|
|
隠しきれない過去