修学旅行の夜。おしゃべりが一段落したあと、女子たちは旅館のテレビをつけ、なんとなくバラエティ番組を眺めていた。
画面には、華やかなドレスを着たタレントが映っている。
「この人、ニューハーフなんだって」
奈々がリモコンを持ったまま言った。
「へぇ~、すごい綺麗だね」
美咲が感心したように呟く。
「でもさ……」
詩織はテレビをじっと見つめながら、思わず口を開いた。
「せっかくついてたのに、切るなんてもったいなくない?」
その一言に、部屋の空気が一瞬止まった。
「え?」
千尋が戸惑ったように聞き返す。
「だって、普通に考えてみ? あんなに便利なものが最初からついてたのに、自分で取っちゃうんだよ? それ、めっちゃもったいなくない?」
詩織は本気で言っているようだった。
「いや、まあ……そういう生き方を選んだわけだからね」
奈々が少し気まずそうに笑う。
「うーん……」
詩織は腕を組んで唸る。
「だったら、私にくれればよかったのに!」
「は!??」
千尋が目を丸くする。
「いやいや、詩織、何言ってんの!?」
「いやさ、ちょっと興味あるじゃん? もしそういうのを移植できるなら、つけてみたくない?」
詩織はどこか興奮気味に話し続ける。
「私、たぶん、結構うまく使いこなせる自信あるんだけどなぁ……!」
「……いや、私はいいかな」
美咲が苦笑しながら首を振る。
「私も別に、いらないかも……」
千尋も少し引きぎみに答えた。
「えー、なんで!? こんなに便利そうなのに?」
「いや、単純に……ついてる自分が想像できないし……」
「うん、それな」
奈々も同意していた。
詩織は彼女たちの反応を見て、「えーっ」と不満げに唇を尖らせる。
「みんな、夢がないなぁ……私なら、絶対に面白いことになったと思うのに」
「詩織、それはもう別のジャンルの話になってるよ……」
美咲が呆れたように笑った。
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切るなんてもったいない!