「ねえ、悠斗くん」
詩織は枕に肘をつきながら、じっと悠斗を見つめた。
「ん?」
「……彼女とか、いたことあるの?」
唐突な質問に、悠斗は一瞬言葉に詰まる。
「なんだよ、急に」
「いや、気になっただけ」
詩織はニヤリと微笑む。
「悠斗くん、顔は悪くないし、性格も落ち着いてるし、普通にモテそうじゃん?」
「そんなことないよ」
悠斗は苦笑しながら天井を見上げた。
「……昔は、いたこともあるよ」
「へぇ~、どんな人?」
「普通の子だったよ。特に派手でもなくて、優しい子だった」
「ふぅん……」
詩織は顎に手を当てて考えるような仕草をしたあと、さらに質問を重ねる。
「じゃあ、その子とは……その……うまくいってたの?」
悠斗は沈黙する。
詩織の問いの意図をすぐに察した。
「……まあ、最初は普通だったよ」
「最初は?」
「……途中で、いろいろあったんだよ」
詩織はそれ以上深くは聞かなかったが、なんとなく察したようだった。
「じゃあ、今は?」
「今?」
「今、好きな人とかいるの?」
悠斗は少し考えてから、肩をすくめた。
「さあ……どうだろうな」
「……そっか」
詩織は意味深に微笑むと、悠斗の腕に指先で軽くなぞるように触れた。
「ねえ、悠斗くん」
「ん?」
「もし、好きな人ができたら……ちゃんと、自分のこと話せる?」
悠斗の胸がズキリと痛む。
詩織は無邪気な笑顔を浮かべながらも、核心を突いてくる。
悠斗は、答えられなかった。
***
「ねえ、悠斗くん」
詩織は枕から上半身を起こし、じっと彼を見つめる。
「さっきの話の続きなんだけど……夜のほうは、どうだったの?」
「……は?」
悠斗の心臓が一瞬止まりかけた。
「だから、彼女とちゃんと……できてたの?」
詩織はあくまで無邪気な口調で聞いてくるが、その目はどこか探るような光を帯びていた。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
悠斗は笑って誤魔化そうとしたが、詩織は引かなかった。
「だって、普通気になるでしょ? 彼氏がそういうことできなかったら、彼女だって困るだろうし」
悠斗は無意識に拳を握りしめた。
「……まあ、それなりには」
「それなり?」
詩織は鋭い。悠斗の言葉の濁し方から、何かを察したようだ。
「でも結局、その彼女とは別れたんでしょ?」
「……まあな」
「それって、もしかして……そういうことが原因?」
悠斗は答えなかった。
詩織は一瞬考えた後、ふっと口元を緩めて微笑んだ。
「ふぅん……やっぱり、ちょっと特別な事情があったのね?」
「……」
「ねえ、悠斗くん」
詩織はさらに近づき、挑発するような笑みを浮かべた。
「本当に、女の子を満足させられる?」
悠斗の胸が締め付けられる。
「……どういう意味だよ」
「さっきはちゃんと頑張ってくれたけど……結局、本番はなかったじゃない?」
「……」
詩織は悠斗の顔を覗き込むようにして言った。
「もしかして……ずっと悩んでたりする?」
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詩織のさらなる追及