部屋の明かりが消えると、静かな闇の中に二人の吐息だけが響いた。
悠斗は慎重に、しかし確実に詩織の体を愛撫していく。ブラウスの下に滑り込ませた指が、温かな肌をなぞる。
「ふぅ……」
詩織の息がわずかに上擦る。彼女は普段、仕事では男勝りな態度を貫いているが、今は違う。
悠斗の指が動くたびに、詩織の表情は柔らかくなり、しだいに女の顔になっていく。
悠斗は自分の中の男性としての本能が、確かに燃え上がっているのを感じた。
——このままいける。
そう思いながら、彼は時間をかけて詩織を愛撫し続けた。
小一時間ほど、絡み合い、濃厚な前戯が続いた。
詩織の体は十分に熱を持ち、彼女の吐息も甘く乱れている。
「……もう、いいよ」
潤んだ瞳で、詩織がささやいた。
——本番の合図。
悠斗の心臓が跳ねる。だが、次の瞬間には冷や汗がにじみ出た。
できるわけがない。
悠斗にはちんちんがない。
それなのに、目の前の詩織は何の疑いもなく、悠斗が当然のように彼女の中へ入るものと思っている。
どうする……?
悠斗が戸惑っているのに気づかない詩織は、待ちきれない様子で体位を入れ替えた。
「悠斗くん、ちょっと私がリードするね」
詩織は悠斗の肩を押し、彼を仰向けにすると、ゆっくりと69の体勢を取った。
柔らかく丸みを帯びた彼女のヒップラインが、悠斗の視界いっぱいに広がる。
これ以上ないほどに興奮する状況——のはずだった。
「ねぇ……」
詩織の手が悠斗の股間へと伸びる。
悠斗の背筋が凍った。
——やめろ!
心の中で叫ぶが、動けない。
彼女の指が股間に触れようとするが、空を掴むように戸惑った。
「……ん?まだ勃ってないの?」
詩織は若干プライドを傷つけられた。
詩織の手が、悠斗の下腹部を探る。
——あるはずのものが、ない。
「悠斗くん……?」
詩織の声色が少し変わった。
まだ気づいていない。しかし、彼女の指がさらに根元へと伸びたとき——
——そこで止まった。
「えっ……?」
詩織の指先が、悠斗の股間の形を確かめるようになぞる。
そこには、男らしく屹立するものはなく、滑らかな肌が続き……
「……ちょっと待って」
詩織が、わずかに震える声で言った。
「これ……」
暗闇の中、彼女の指先が悠斗の股間のシルエットを確かめる。
——それは、彼女自身と同じ形をしていた。
空気が一変した。
悠斗は息を止めたまま、微動だにできなかった。
暗闇の中の前戯