ホテルの部屋に入ると、詩織はすぐにヒールを脱ぎ、ベッドに腰掛けた。
「ふぅ、やっと落ち着いた」
グラスを片手に、バーでは見せなかった柔らかい笑顔を浮かべる。
悠斗は少し緊張しながら、ベッドの端に腰を下ろした。
詩織はスーツのジャケットを脱ぎ、ブラウスの袖をまくりながら、ふと遠くを見るような目をした。
「ねえ、悠斗くん。変な話してもいい?」
「なに?」
詩織はクスッと笑い、ワイングラスを軽く揺らしながら言った。
「私、ホントは男に生まれたかったんだよね」
その言葉に、悠斗は一瞬ドキッとする。
「へぇ……意外だな」
「小さい頃から、兄貴のことを羨ましく思ってたのよ。立ちションとか、男の子ならではのことが全部楽しそうに見えたの」
詩織はいたずらっぽく笑いながら、悠斗の肩を軽く小突いた。
「男っていいよね。何も考えずにそのへんで立っておしっこできるし、スーツ着ればみんなカッコよく見えるし」
悠斗はその言葉に、心の奥がざわつくのを感じた。
「まあ……そういうもんかね」
「ふふっ、悠斗くんはあんまり実感ないか」
「いや、そんなことないさ」
詩織の無邪気な笑顔を見ていると、思わずドキドキしてしまう。
「でも、結局私は女に生まれちゃったからね。今さら男にはなれないし、こうして女の武器を使うしかないわけ」
そう言って、詩織はブラウスのボタンをひとつ外した。
「……悠斗くん、どこ見てるの?」
「べ、別に」
詩織はニヤッと笑うと、悠斗のネクタイを軽く引っ張った。
「そんなに緊張しなくてもいいのに。男なんだからさ……リードしてよ?」
悠斗の心臓が高鳴る。
「俺だって……そのつもりさ」
そう言いながら、悠斗は彼女の腰に手を回した。
詩織は目を細めると、甘い吐息を漏らしながら、ゆっくりと顔を近づけてきた。
唇が重なり、部屋の空気が熱を帯びていく。
このまま、すべてを忘れられたら——
悠斗はそう願いながら、玲奈をベッドへと押し倒した。
夜の駆け引き