悠斗はカフェの隅で、スマホを眺めながらコーヒーを飲んでいた。
隣のテーブルでは、女子高生たちが楽しそうにおしゃべりをしている。
「男子ってさ、トイレ楽でいいよね!」
唐突に耳に入ってきた言葉に、悠斗の動きが止まる。
「わかる! 立ちションできるの超うらやましい! 私も男に生まれたかった~!」
「だよねー! 公園とかでちょっとした時にトイレ行きたくなっても、男子はすぐ済ませられるのに、私たちは個室探さなきゃいけないしさ~。」
「しかも、音とか気にしなきゃいけないのが面倒くさい! 女子って絶対、トイレで『ジャーッ』て音がするの気にするじゃん?」
「そうそう! だから水流しながらやることあるもん(笑)」
「わかる! でも男子って、そんなの気にしないでしょ? 立ってるだけで勝手に出ていくし(笑)」
悠斗は、その会話を聞きながら、ぎゅっと拳を握った。
(……俺はもう、その「男子」には含まれていないんだよな。)
女子高生たちが言う「立ちションの楽さ」も、「音を気にしなくていいこと」も、悠斗には当てはまらない。
今の彼は、完全に「女子と同じ排尿スタイル」だった。
座って、股間をしっかり開いて、お尻を下ろして、音を気にしながら排尿する。
昔は違った。
悠斗も、男子トイレの小便器に並び、何の気兼ねもなく立ちションをしていた。
それが、今はどうだ?
「次、生まれるなら絶対男がいいわ~!」
女子高生たちの笑い声が、悠斗の胸に突き刺さる。
(俺は……男に戻りたいのに。)
「男子がうらやましい」
その何気ない言葉が、悠斗にとっては残酷なものだった。
「男でいたかった」
そう思っても、もう彼には、立って用を足せる器官はなかった。
ただ、女子高生たちと同じように座り、音を気にしながら用を足すだけだった。
コーヒーはまだ温かかったが、悠斗の心は冷え切っていた。
女子高生の立ちション願望