ある日、ほろ酔いの状態で悠斗は電車で帰路についた。
店を出る直前に飲んだためか、おしっこがたまり膀胱はパンパンだった。
(早く最寄り駅についてトイレに行きたい……。)
電車を降りた悠斗は、一目散に男子トイレへ向かった。
混雑したトイレの中、小便器の列に並ぶ。
酔っ払って判断能力が落ちていたのと、排尿への意識が強くなりすぎて、陰茎が無いことを忘れていた。
ようやく自分の番が回ってきて、チャックを下ろして股間を弄る。
しかし、立ちションに便利な陰茎など、どこにも存在しない。
(……俺に陰茎など、あるわけないじゃないか。)
周囲の男性たちは何の疑問も持たず、当然のように立ちションをし、用を済ませて立ち去っていく。
個室へ行くしかない。しかし、運悪く空いていたのは和式トイレだけだった。
(こんなところで……でももう我慢できない……。)
悠斗は仕方なく、和式トイレに入った。
パンツを下ろし、しゃがみ込む。女性と同じように、自らのお尻と割れ目を丸出しにして排尿するしかなかった。
(俺は……男なのに……。)
耳を澄ませば、外では男性たちが立ちションの音を立て、気楽に用を足している。
それに比べ、悠斗は膝を抱えるようにしながら排尿していた。
この姿を誰かに見られたら、もう終わりだ。
女性と同じようなシューシューと音が、割れ目から出る。
(……俺は、こんな音を立てる身体になってしまったのか。)
そう思いながら、悠斗はひたすら無心で流れる音を聞き続けた。
ただの排尿でさえ、男である自分を突き崩す出来事になりうる。
用を済ませた後、手を洗いながら鏡を見つめる。
そこに映るのは、男として生きたいと願いながらも、根本的に違ってしまった自分の姿だった。
「俺は……どこへ行くんだろうな。」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉は、静かな夜の駅構内に吸い込まれていった。
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立ちションできない現実