夜、悠斗はベッドに横たわっていた。
性欲がたまっているのが分かる。ホルモン療法を再開したことで、男としての欲望が強くなっていた。
だが、その発散方法が分からなかった。
以前なら、ただ手を伸ばし、ちんちんを扱くことで簡単に満たせた。それができなくなってからは、どう処理すればいいのかが分からなくなった。
それでも、無意識のうちに股間に手を伸ばす。
(俺のちんちん……あるはずなのに。)
指先はそこに何もないことを伝えてくる。
しかし、脳はまだそこに何かがあると錯覚していた。
ファントムペニス——幻影の感覚。
まるで、透明なちんちんが存在するかのように、そこに触れたくなる。しかし、実際には何もない。指でなぞっても、そこにあるのは滑らかな肌だけ。
(おかしい……こんなはずじゃ……。)
まるで、自分の身体が自分のものでないような違和感。
性的な興奮がこみ上げるたびに、その不完全さがより鮮明に浮かび上がる。
男としての衝動はあるのに、それを受け止める肉体がない。
(こんなの、どうしろっていうんだよ……。)
苛立ちと絶望が入り混じり、悠斗は手を引っ込めた。
かつての自分なら、ここで快楽に浸れたはずだった。
今はただ、熱だけが身体の中にこもり、行き場を失ったままだった。
目を閉じても、眠れる気がしない。
「……どうすれば、いいんだ。」
声に出してみても、答えはどこにもなかった。
悠斗はただ、闇の中で虚空を見つめ続けていた。
だが、耐えきれなくなった。
「……もう嫌だ。」
思わず吐き出した声は震えていた。自分自身に苛立ち、拳を握る。
(男としての衝動はあるのに、なぜ満たせないんだ?)
彼はもう一度、股間に手を伸ばした。人工的に作られた陰核。だが、それでは何も変わらない。何をしても満たされることはなかった。
「これじゃない……!」
彼は唇を噛み締め、悔しさで喉が詰まる。
かつての自分なら、男としての快楽を簡単に得られた。だが、今はどうだ?興奮しても、何もない。感じるべき部分がない。
「返せ……。」
彼は呟いた。
「俺の……ちんちんを返してくれ……!」
闇の中に叫んでも、返事はない。何度手を伸ばしても、そこにあるのは、女性のように平坦な股間だけ。
悠斗はベッドの上で膝を抱え込み、耐えるように目を閉じた。
だが、その痛みが消えることはなかった。
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幻影の感覚