葵と別れた後、悠斗の日課の一つが風呂場での立ちションの練習になった。
「男なら、立ってするのが当たり前だろ……」
彼はそう自分に言い聞かせながら、試行錯誤を繰り返した。
だが、現実は厳しかった。
勢いよく放とうとしても、尿の流れはまとまりを持たず、まるでシャワーのように四方八方へ飛び散る。狙った場所に線を描くことができない。前に飛ばすどころか、足元まで濡らしてしまうこともあった。
「……クソ。」
最初は笑い飛ばそうとした。だが、何度挑戦してもうまくいかず、そのたびに彼の中で苛立ちが募っていった。
気づけば、悠斗は膝を折り、シャワーの床にしゃがみ込んでいた。
「これじゃ……女以下じゃないか。」
女性でも、工夫すれば立ちションができると聞いたことがある。なのに、自分はそれすらまともにできない。
「俺は、男の何を取り戻そうとしてるんだ……?」
ふと、葵がシャワールームで見せた立ちションを思い出した。
彼女は軽やかに前傾姿勢をとり、器用にコントロールしていた。悠斗が失敗すると、「コツを掴めばできるって!」と笑っていた。
あの時は、冗談半分に見ていたが、今思い返せば彼女の方がはるかに上手だった。
「……俺は、あいつより下手なのか?」
「ちんちんさえついていたら、葵より上手に立ちションできるのに。」
かつて、悠斗は何も考えずにできていた。ちんちんがあることは当たり前で、それを持っていることで自然とできるものだと思っていた。
今はどうだ。
力を入れても、方向を定めても、うまく線を描けない。思うようにコントロールできず、飛び散るだけ。
「……これが、俺の現実か。」
自分よりも葵のほうが上手い。
女性よりも、立ちションが下手になってしまった自分。
その事実が、彼の男としてのプライドを砕いていく。
彼はしばらく床に座ったまま、湯気の立ち込める風呂場の壁を見つめていた。
水滴が静かに流れ落ちる音が、やけに耳に響いた。
|
|
立ちションの練習と絶望