葵はシャワールームの鏡を見つめながら、ぼんやりと考えていた。
悠斗の身体を目の当たりにしたときの衝撃が、今も彼女の中で渦巻いている。
「私と、同じ……?」
その言葉を発した瞬間、悠斗の目がかすかに揺れた。だが、彼は何も言わなかった。
(私、あのとき、どう反応すればよかったんだろう?)
それまでは、悠斗のことを『男』として意識していた。彼の言葉遣いや仕草、そして男性ホルモンの影響で変わり始めた体つきが、そう思わせていた。
でも——。
股間を見たとき、彼女の中で何かが変わった。
(本当に、男として接していいの?)
悠斗は苦しそうにしていた。自分を男だと信じ、努力し続けている。でも、彼の身体は、その意識に追いついていないように感じられた。
葵は湯気に包まれながら、ため息をついた。
「悠斗……。」
彼は、これからどう生きていくんだろう。
そして——
(私は、彼をどう受け止めればいいんだろう?)
その疑問が渦巻く中で、葵の心にはもう一つの感情が芽生えていた——興味。
悠斗の人工女性器は、葵自身のものと驚くほど似ていた。だが、それはかつて男性器だったものが変化したもの。
「ねぇ悠斗、ちょっと聞いてもいい?」
「……何?」
「その……どこがどうなって、こうなるの?」
葵は遠慮がちに尋ねた。
「どの部分がどうなったのかって?」
悠斗は少し驚いたようだったが、彼女の視線が真剣であることに気づくと、静かに頷いた。
「もともと、陰茎と陰嚢を使って作られるんだ。皮膚を反転させて、膣の奥行きを作る。陰核の部分は、神経を残して快感を感じられるように形成される。」
「……へぇ、じゃあ、もともとの感覚は残ってるの?」
「……残ってる部分もあるし、そうじゃない部分もある。完全に元と同じわけじゃないけど、感覚はあるよ。」
葵は考え込むように頷いた。
「なんか、不思議だね……。だって、悠斗の体って、私のとほぼ同じ形なのに、まったく違う経緯でできたんだもん。」
そう言いながら、彼女の視線は再び悠斗の股間へ向かった。
(これが、男として生きたい悠斗にとってどんな意味を持つのか……私はまだ、分かっていないのかもしれない。)
気が動転した葵は、どうにか空気を和らげようと、軽く笑いながら言った。
「でもさ、すごいね。まるで最初からこうだったみたい……。」
悠斗の表情が一瞬、硬くなる。
「なんか、女の子みたいでかわいいかも。」
葵は、自分が言った言葉の意味を深く考えずに口にしてしまったことに気づき、慌てて言葉を継ごうとする。
「いや、そういう意味じゃなくて……ほら、手術がすごく自然にできてるってこと!ほんと、違和感ないし……。」
葵の心の中には、答えの出ない問いが残されたままだった。
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葵の揺れる心と興味