悠斗は、夏希の身体を抱きしめながら、彼女の肌の温もりを感じていた。
「悠斗……」
夏希が囁く。
彼は彼女を求め、体を密着させる。
しかし——何も感じなかった。
彼の股間は空白だった。
かつてあったはずの感覚が、何もない。
彼女の柔らかな肌に、自分の股間を押しつけても、何も反応が返ってこない。
「……っ。」
焦りと苛立ちが混じる。
彼女は優しく彼を抱きしめるが、それが余計に彼の心を締めつける。
「俺は……どうすればいいんだ……?」
その問いに答えはない。
「……悠斗、やっぱり無理。」
突然、夏希の声が硬くなった。
悠斗は驚いて顔を上げた。
「夏希……?」
彼女の目は鋭く、そしてどこか悲しみに満ちていた。
「私……悠斗が好きだった。でも、私が求めているのは男なの……。あなたが好きなつもりでいたけど、こうして触れ合って、やっぱり違うって思ったの。」
彼女の言葉が刃のように突き刺さる。
「違うって……俺は……俺だろ……?」
悠斗は自分の声が震えているのを感じた。しかし、夏希は首を振った。
「ごめん。でも、私はあなたに“男”を求めていたんだと思う。私のワガママかもしれない。でも、悠斗の体に触れて……その感触が、私には……」
彼女の瞳には迷いがあった。しかし、その迷いがあること自体が、悠斗には何よりも辛かった。
「……そんなの、最初から分かってたことじゃないのか?」
悠斗の言葉に、夏希は唇を噛んだ。
「分かっていたつもりだった。でも……現実は違った。」
その一言で、悠斗の胸の奥にあった何かが崩れた。
「……帰れよ。」
低く絞り出すように言った。
夏希は小さく息を飲み、立ち上がった。
「ごめんね、悠斗。」
それだけを言い残し、夏希は静かに部屋を出て行った。
残された悠斗は、ただ茫然と天井を見つめていた。
「俺は……どうすればよかったんだ……?」
空白の股間を押さえながら、彼は独りつぶやいた。
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終章:新しい「男」としての絶望